精度向上で効果を最大限に ~放射線治療計画の変遷・高度化~

放射線治療の“治療計画”

目に見えない放射線を適正な量で患者さんの体形・病巣に合わせて照射するには、予めシミュレーションを行い、放射線照射装置へ指示する必要があります。この作業を“治療計画”と呼びます。
放射線照射装置は予め設定されたこの治療計画に基づいてビーム照射を行っており、治療計画作業はとても大事な工程となります。

“治療計画の変遷” ~2次元治療計画~

放射線照射装置と治療計画立案のソフトウェアの進化に合わせて、放射線治療計画は時代と共に大きな進化を遂げてきました。
古くは透視撮影したフィルムに放射線を照射したい範囲を書き込み、その周りに放射線を遮蔽する指示を行っておりました。
そうすることで、病巣付近の放射線を当てたくない部位を防護しておりました。
当時の治療計画をディフォルメして以下にお示し致します。

  • 図1. 乳がん術後放射線治療に対する2次元放射線治療計画の立案過程の一例

“治療計画の変遷” ~3次元治療計画~

その後、診断分野で先行してCTが世に出てきました。多量の体内臓器情報を取得できる機器であり、これを放射線治療に応用したいという想いにより、日本国内で放射線治療計画用CTが開発されました。この開発により、放射線治療計画に用いる体内の臓器情報取得が飛躍的に増え、今日の高精度放射線治療の礎となりました。また、放射線照射装置側のビーム成形技術が進化し、高い精度での放射線治療が実現する準備が整いました。

従来では平面情報でのみ行えていたシミュレーションが3次元空間上で行えるようになった恩恵で、放射線を当てたい病巣と当てたくない正常臓器が近接している場合にも、精度高く指定が出来るようになりました。その結果、正常組織への不要な放射線照射を減らし、副作用を抑える照射設定が可能となりました。

現在は、様々な臓器部位をソフトウェア上でプロットし明示することによって、部位ごとに照射されるであろう放射線の検討を詳細に行い、より副作用が少なく治療効果の高い治療計画を立案されております。カラーマップで放射線の当たる量を示すことで、計画者がシミュレーションの現状を容易に把握出来るように設計されてます。

テクノロジー進化の恩恵

治療計画も使用する撮影機材や計算装置の進化による恩恵を受け、現在ではスーパーコンピューターでのシミュレーションに近い手法を取り、複雑な計算が出来るようになりました。その反面、昨今の放射線照射装置では複雑なビーム制御が行えるようになり、それに比例してシミュレーションにかかる時間も増加していました。(黎明期では1昼夜も!)
 
たとえば、元々確率統計学で用いられるモンテカルロ法と呼ばれる手法は、乱数を用いて様々な条件を何度も繰り返し計算することで放射線の振る舞いをシミュレーションする方法で、従来とても計算に時間を要するものでした。この計算には非常に高スペックなコンピューターが必要でした。

コンピューター開発は日進月歩の進化を遂げており、最近のワークステーションでは複雑な演算が非常に高速に演算できるようになりました。一例では、最近のゲーム機に搭載されている処理機能も、非常に複雑な物理演算をリアルタイムで行っているのです。このような他分野のテクノロジーを応用することで、精度の高い計算を高速に行えるようになりました。様々な方向からビーム照射される近年の高精度放射線治療では細かなビーム制御が肝要ですが、放射線が複雑に入り乱れた振る舞いを高度にシミュレーションすることで、はじめて成立する技術です。

まとめ

目に見えない放射線をどのように適切な設定で照射するかを立案するために、治療計画はとても大事な工程です。
高度なシミュレーションを行うために、多くの情報が含まれた体内撮影画像と高速な処理技術が必要でしたが、テクノロジー進化と共に問題解決がなされています。

ハードウェアの進化がソフトウェアの高度化に繋がり、また最終的に放射線治療の品質向上に寄与します。