精度向上で効果を最大限に ~高精度放射線治療 IMRT~

高精度放射線治療の一つ IMRT

 テクノロジー進化の恩恵で、放射線治療は急速に高精度化が進んでいます。高精度放射線治療の一つであるIMRTもまさに近代技術の粋を集約した手法です。“放射線ビームを強度変調させながらがん病巣へ照射する”という目的のために、最新の治療装置およびシミュレーション手法を駆使します。本章では、ハードウェアとソフトウェアの進化を融合して開発された技術のご紹介をいたします。

IMRT で利用される高度技術

 IMRTの技術的な特徴の一つに、MLC(Multi Leaf Collimatorマルチリーフコリメータ)と呼ばれる照射する放射線の形を成形する装置が積極的に用いられていることがあります(参考1)。薄いリーフ状の遮蔽プレートが対となり、照射中にもリアルタイムで精密に動くことで、従来の照射法よりフレキシブルな放射線ビームの成形が行えるようになり、できるかぎり正常組織に放射線があたらないような照射を行うことができます。これに、リニアックから発生される放射線の線量に強弱を加えることで、IMRTの名前の由来である“強度の変調を行いながら放射線治療を実施(Intensity Modulated Radiation Therapy)”することができるようになりました。

IMRTは、放射線を強くあてたい場所(がん病巣)には強く、可能なかぎりあてたくない場所(正常組織)には弱く、という相反する目的を両立することが容易となりますが、対して更に綿密なシミュレーションが求められます。最新のコンピュータテクノロジーがもたらすシミュレーション結果を、医療従事者は治療前の実測などのさまざまな手法を用いながら、事前の確認・検証作業を行っています。

  • (参考1)
    回転原体照射やIMRTはマルチリーフコリメータ(Multi-Leaf Collimator: MLC)を使って、照射野を形成します

IMRT のメリット

 IMRTは、たとえば頭頸部のような口腔・咽頭・舌・脊髄・リンパ腺などが密接しながら複雑に配置されている部位でも、がん病巣に線量を集中しながら正常組織への照射低減を行えるようになりました。舌への照射が回避されることで味覚障害の副作用を低減させるなど 、QOLを高めたがん治療の一つとして紹介されることが多くなりました。また、このようなビーム照射のメリハリにより生まれる恩恵をさまざまな部位で患者さんに享受していただくべく、日々照射方法の最適化が検討されております。

さらなる照射最適化の取り組み VMAT

 VMATとはアーク照射と呼ばれる連続回転しながらIMRTを行う照射法です。IMRTでは複数の照射方向ごとに停止して照射していたものを、回転しながら連続照射することで照射時間の短縮が実現できました。照射に時間がかかっていた高精度放射線治療のスループットを向上させることで、少しでも多くの患者さんにIMRTを提供できるよう、開発された技術です。

まとめ

 IMRT/VMATは現在の高精度放射線治療を代表する基幹技術です。すべてのがんに用いられる訳ではありませんが、がん病巣と正常組織が密集する部位への照射に積極的に取り入れられ、“精度向上で効果を最大限に高める”放射線治療の推進が取り組まれております。