人にやさしい放射線治療 ~転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療~

転移性脳腫瘍とは

転移性脳腫瘍は、他の臓器に出来たがんが脳に転移した状態をいい、多発性転移性脳腫瘍はそれらが複数ある状態をいいます。
がん細胞は身体全体に広がる能力をもっているため、身体のどこかにできたがんがある一定の大きさになると、細胞分裂して血液中に入り込み、その後、脳に留まり、脳内に沈着し腫瘍を形成します。
主に、肺がん、乳がん、黒色腫、精巣がんからの転移が多い傾向があります。

転移性脳腫瘍に対する治療の選択肢

転移性脳腫瘍の場合、治療の選択肢として、外科的手術、薬物療法、放射線治療が挙げられます。

外科的手術は、メスを用いてがんを取り除くため即効性がありますが、身体の機能が失われることがあり、腫瘍の場所によっては手術が困難な場合もあります。また、入院が必要となります。

薬物療法(化学療法)は全身に散らばったがんに有効で、近年では、がんの種類や進行度などに合わせた薬剤による治療が行われています。がんに対する殺傷能力は高いですが、倦怠感や、吐き気・おう吐、食欲不振、下痢や便秘、脱毛、手足のしびれ等の副作用があります。

放射線治療は、一般的な外部放射線照射(局所照射、全脳照射、全脳脊髄照射など)のほか、
定位放射線手術(SRS)、定位放射線治療(SRT)があります。放射線を脳全体に照射する全脳照射療法の場合、まだ見えない微細な転移性脳腫瘍にも有効ですが、正常組織にも照射される為、正常組織へのダメージが発生し、倦怠感や吐き気、脱毛や難聴、記憶力の低下や他の脳機能に影響を与える可能性があります。

定位放射線手術(Stereotactic Radiosurgery / SRS)は、線量が高い強力な放射線を集中させ、1回の照射で治療を行います。
正常組織へのダメージは抑えられ、治療効果は高くなりますが、一度に照射される線量が高いので、長期的にみて、脳浮腫や壊死等の副作用が増える可能性があります。

定位放射線治療(Stereotactic Radiotherapy /SRT)は、治療に必要な照射線量を複数回に分けて照射します。SRS同様、ターゲットを絞った照射につき、正常組織へのダメージは抑えられつつ、1回あたりの照射線量を抑えられるので、正常組織は回復しやすく、副作用は抑えられます。合計照射線量は同じなので、治療効果も期待できます。

  • 多発性脳腫瘍に対する定位放射線治療実施時の外観

転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療の発展

最新の医用画像診断技術およびコンピュータ技術により、放射線が照射されると障害が起こりやすい「リスク臓器」と呼ばれる視神経や脳幹などを避け、それぞれの腫瘍に限局した照射や、周辺の正常組織へのダメージを軽減し、腫瘍に適した線量分布の自動計算も可能になりました。

また従来は、複数の転移性脳腫瘍を1つずつ照射しており、治療時間は腫瘍の個数に比例していましたが、最近では1回で複数の転移性脳腫瘍を照射できる技術を用いた治療も行われており、今まで1時間以上かかっていた治療時間が、約30分で可能となり、患者への負担が少ない治療が行うことができるようになりました。

従来の定位放射線手術は頭部を固定するために痛みを伴う固定技術が用いられてきましたが、近年ではプラスチック製の専用マスクを頭部に覆うことで固定することができ、痛みを伴わない治療が可能になりました。これによって複数日の治療となる定位放射線治療でも毎回同じ治療位置で固定できるようになり、安全に治療を行うことができるようになっています。

  • 多発性転移性脳腫瘍に対する放射線治療の最新ソフトウェアの外観(1)

  • 多発性転移性脳腫瘍に対する放射線治療の最新ソフトウェアの外観(2)