人にやさしい放射線治療 ~肺がんに対する定位放射線治療~

概要

肺がんは日本人におけるがん病死の第一位であり、発生率は50歳以上で増加することが知られています。
肺がんのうち約85%を占める非小細胞肺癌に対しては、比較的早期(Ⅰ、Ⅱ期)の場合、手術が可能であれば手術を中心とした治療が推奨されます。
しなしながら、
・合併症の既往がある方
・高齢等の理由により手術のリスクが高い方
・手術以外の治療法を選択希望される方
などの方には放射線治療を中心とした治療など、他の治療法が検討されます。

また肺がん症例の約2/3を占める進行がん(Ⅲ、Ⅳ期)では手術が不可能と判断される割合が高くなり、その場合も同様に手術以外の治療法が検討されます。

このような場合、有力な治療方法の1つとして放射線治療があります。
放射線治療は
・Ⅰ~Ⅳ期の非小細胞肺がん
・限局型の小細胞肺がん
・肺がんからの脳転移、骨転移
において第一選択ともなり得る有力な治療方法となっています。

放射線治療の利点

患者さんにとって放射線治療を選択することの利点はどのようなことでしょうか?

放射線治療の利点として、
・他の治療方法よりも短い治療期間となる場合があること
・入院が不要で通院治療が可能な場合があること
・治療に伴う痛みがほぼないこと
などが挙げられます。
侵襲性の大きい治療を回避することができ、短期間で通院治療が可能なことは、多くの患者さんにとって心強いことであると思います。

また肺がんに対する放射線治療の有用性についても以下の臨床研究が報告されています。
早期肺癌に対するJCOG0403という臨床試験では、腫瘍径が3 cm以下でリンパ節に転移がない早期非小細胞肺がんに対して、定位放射線治療を実施しました。その結果、治療後の3年生存率が手術ができない症例群で約6割、手術が可能である症例群で約8割弱という成績が報告されています。本試験は臨床試験対象として、手術可能症例も含めた世界初の試みとして、世界的に日本の放射線治療の評価を上げることにも寄与しました。

Ⅲ期肺がんについて、近年では新たに開発された免疫チェックポイント阻害薬を化学放射線療法に併用することで、従来よりも生存率が向上することが示されました。これまで手術ができないⅢ期非小細胞肺がん症例の5年生存率は15~30%と報告されていましたが、免疫チェックポイント阻害薬を併用した化学放射線療法では3年生存率が50%を超えているとの報告があります。近年の薬剤開発と放射線治療との併用により、更なる臨床成績の向上が期待されます。

少数転移(オリゴメタ)を有するⅣ期の症例に対して、これまでは根治を目指した治療を行わないことが一般的でした。しかし少数転移を有する症例に定位放射線治療を行うことで、生存率が向上することが示されています。これは転移を有する晩期症例への治療方針が大きく変わるものと話題を呼び、放射線治療の新たな保険治療としても追加されました。

進化を続ける放射線治療

このように治療技術の進展により、従来では困難であった根治的治療・緩和的治療が放射線治療で実現されるようになってきました。侵襲性が低く、通院治療が可能な、人にやさしい治療の開発・改善が今後も進められることにより、放射線治療がさらに多くの患者さんの役に立ち、希望の灯となることが期待されます。