人にやさしい放射線治療 ~密封小線源放射線治療~
はじめに
放射線治療の中でも、管、針、ワイヤー、粒状などの形状の容器に密封された放射性同位元素を放射線源として、がんやその周囲組織に直接挿入したり埋め込んだりして治療する手法を密封小線源放射線治療(以下、小線源治療)と言います。体の内部から放射線を照射する治療法であることから内照射とも呼ばれ、リニアック(医療用直線加速器)などで照射する外照射と区分されます。局所的治療に特化した方法です。腫瘍に直接照射したり、線源を留置したりするため、呼吸等によるズレは少なく、また、周辺の正常組織への影響も少ない優れた治療法です。
小線源治療の歴史
小線源治療の歴史は古く、1988年にキュリー夫人によるラジウム発見の3年後の1901年に皮膚がんに対してラジウム(Ra-226)治療を行ったのが始まりです。日本においては1934年にラジウム線源が輸入されたのが始まりですが、1970年代以降は、現在も使用されている高線量率イリジウム線源(Ir-192)等新しい線源が輸入されるようになり発展しました。当初は線源を扱う術者の被ばくがリスクとなっていましたが、体内に留置したチューブに遠隔操作で線源を送り込むことができる遠隔式後装填法(Remote After Loading System:RALS/ラルスと呼ばれる)治療装置が開発され、医療従事者の被ばく低減にもつながっています。
小線源治療の種類
小線源治療には体内の有腔(ゆうくう)臓器の管腔内に挿入して、線源を一時的に留置する腔内照射、がん組織に線源を刺し込む組織内照射、体表面のがんに線源を貼り付けるモールド治療があります。これらの治療方法は部位やステージ(病気の進行度)によって使い分けられます。
日本で最も多く治療されているのは婦人科領域の子宮がんにおける腔内照射です。外照射と併用して根治治療が行えます。アプリケータを利用して高線量率イリジウム線源またはコバルト線源(Co-60)を挿入して患部に近接した位置から直接照射します。医療機関によってはさらに外套針による組織内照射をプラスする俗にハイブリット治療と言われる手法でより効果的な照射をしているところもあります。
組織内照射においては前立腺がんに対しても高線量率イリジウム線源を一時的に刺入する治療も多く行われています。さらに最近では乳がんに対する治療も増えてきています。
また、高線量率密封小線源治療以外にも、前立腺がんに対するヨウ素(I-125)を用いた永久挿入治療や、舌がん、口唇がん、中咽頭がんに対して金粒子(Au-198)、イリジウムピン(Ir-192)を用いる低線量率密封小線源治療もあります。
いずれも、部位に合わせて様々な形状のアプリケータなどが開発されていることや、MRI、CT、透視などイメージガイド下で行う方法など、さらにはコンピュータによる治療計画の技術が進みより優れた治療になっています。
まとめ
密封小線源治療は照射したい場所だけにピンポイントで照射することが可能であり、手術と同じように根治治療ができる上に外科的侵襲がないことが優れたがん治療法の1つです。術者である医療従事者や放射線治療装置メーカー等の技術発展により、より良質な線量分布を、より正確に提供することが可能になっています。