人にやさしい放射線治療 ~放射線治療の進化と変遷~

放射線治療の進化

 日本ではじめてリニアックが納入されたのは、当時の国立がんセンター(現・国立がん研究センター中央病院)で1963年までさかのぼります。この1963年を境に、放射線治療の原則、「照射したいところ(がん病巣)には多くの放射線を 照射したくないところ(正常組織)には極力少ない量の放射線を」に基づいて、リニアックにはさまざまな技術革新がもたらされました。それらはすべて、先人達の「放射線治療でがんを治すことによって、患者の皆さまのお役に立ちたい」という強い願いから生まれたものとなっています。

体内のがんはさまざまな形状をしておりますが、放射線治療の歴史を紐解きますと、がん病巣の形状に合わせて放射線を照射するためのさまざまな工夫が検討されてまいりました。初期のリニアックにおきましては、作成可能な照射野(放射線を照射する範囲)は長方形(矩形)のみという時代が長く続きましたので、がん病巣の形状になんとか合わせるために、鉛の遮蔽材を装置に取り付けて放射線治療を実施していました。

その後、日本では世界に先駆けてがん病巣の形状に合わせた照射野を作るための工夫がなされ、1957年に千葉大学梅垣洋一郎先生が照射中に照射口の絞りを開閉させて高線量域を円柱以外の形状にする「可変絞り回転照射法」を発表。1960年には名古屋大学高橋信次先生が病巣の形状に近似した放射線照射が可能な「回転原体照射法」として発展させ、高精度放射線治療の代名詞でもある強度変調照射法(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)の礎を築きました。

1970年代後半になるとコンピューター技術が発展し、画像診断分野ではX線CTが登場します。CTの出現により体内の断面像をみることが可能となりました。これにともない、放射線治療ではCTデータを用いた線量分布計算装置(放射線がどのようにがん病巣に照射されるかをシミュレーションするもの)の開発と治療シミュレーションの高度化が急速に進みます。

最近の高精度放射線治療

 1990年代になると線量分布計算も3次元的(立体的)に行えるようになり、また、技術革新により、線量分布計算装置で使用するコンピューターの計算速度が向上したことで、よりがん病巣に集中した放射線照射を実施するための照射方法の検討が、線量分布計算装置で簡単に行えるようになりました(現在の放射線治療計画装置の起源です)。

また、脳神経外科領域におきましては、がん病巣に多方向から小さな照射野で放射線を照射することでがん病巣への線量の集中性を高めた、定位手術的照射(Stereotactic Radio-Surgery: SRS)という照射法が日本国内で急速に広まり、この技術を活かして頭部以外のがん病巣にもピンポイントで放射線を集中的に照射する、体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy: SBRT)も肺がん等の領域で行われるようになりました。

2000年代になると先述のIMRTが普及し始め、がん病巣により多くの放射線を照射しながら、近接する正常組織の保護のために、がん病巣以外の領域の放射線量を極力抑制することで、副作用が少なくQOL(Quality of Life:生活の質)の高い放射線治療を提供できるようになってまいりました(参考1)。また近年ではIMRTと回転しながらの連続照射を組み合わせ、IMRTをより簡便、かつ、短時間で実施可能となったVMAT(Volumetric-Modulated Arc Therapy)という照射法が急速に普及してきている状況です。

IMRTやVMATの線量分布計算は、あらかじめ放射線治療計画装置に、がん病巣に照射したい放射線の量や範囲、ならびに、放射線を照射したくない正常組織への許容可能な放射線の量等を設定すると、その計画装置が逆算して最適な放射線照射のための条件を導き出すという仕組みになっているため、従来の放射線治療計画の考え方とは全く異なるものでした。また、当初は1つの治療計画を計算するためにかなりの長時間を必要としましたが、いまでは計画装置に用いるコンピューターのさらなる技術革新により、数十秒~数分での計算が可能になっております。

また、リニアックには画像取得用のX線撮影装置が搭載され、画像誘導放射線治療(Image-Guided Radiation Therapy: IGRT)が行われるようになり、従来の放射線治療に比べ、がん病巣に対して正確な照射が可能となっております。最近では、赤外線を用いて体表面の動きを監視しながら治療を行うSGRT(Surface-Guided Radiation Therapy)も広がりつつあります。なお、リニアックや治療計画装置の発展にともない、放射線治療を安全に実施すべく、リニアック装置や放射線治療計画装置の品質管理(Quality Control: QC)を実施するためのさまざまなQC装置も、進化し続けています。

まとめ

 放射線治療は副作用がより少なく、効率的ながん医療を目指しながら、技術革新とともに進歩を続けています。特に、本ページであげたIMRTは、現在の高精度放射線治療を代表する基幹技術です。

“人にやさしい”放射線治療のさらなる推進に向け、医療従事者とともに歩んでまいります。

  • (参考1)
    IMRTの線量分布図
    (前立腺の例:赤いほど線量が高く、青いほど線量が低い)